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              『 「起業バカ」が教えてくれるもの 』

           今年4月30日に刊行された光文社ペーパーバックス渡辺仁著「起業バカ」
          が、一カ月半で5刷、発行部数5万部とよく売れている。
           これまでの起業本は、成功例や成功ノウハウにばかり焦点を当ててきたが、
          この本はまったく逆の失敗から起業例を取り上げている。
           失敗例から起業を見ると、多額のお金と努力と時間を使い、それまで築きあ
          げた資産や人間関係、家族までも失いかねないこの危うい作業には、失敗特
          有の一定の計算式によって成り立っているような気がしてならない。
           特に、多額の開業資金を準備して起業に走る大企業出身の元サラリーマン
          たちは、思い込み自信過剰経験不足など、失敗の計算式には欠くことの
          できない変数を数多く抱えている。
           また、大新聞に掲載される起業広告を、読者が勝手に「○○新聞に載るくら
          いだから・・」と信用するケースも、失敗のための重要な変数になる。

           「起業バカ」を読み進んですぐ気づくのは、ここに掲載されている起業の失敗
          例のほとんどが、フランチャイズ・チェーン( FC )にまつわる起業である点だ。
           確かにFCも起業と云えば、云えないこともないが、加盟店側が自分を起業
          家、経営者と思っていても、本部にとっては社員より扱いやすい契約上の一取
          引先であり、契約を交わしたそのときから加盟店の生殺与奪の権利を加盟料
          と一緒に本部に引き渡したことになる。
           実例で出てくる50代後半の元大手企業勤務のシステムエンジニア氏は、コ
          ンビニ経営に3000万円近い出資をして開店までこぎつけたが、売上げ不振
          により4年半で店舗を閉鎖した。老後のために蓄えた預金全額を出資したのに、
          24時間営業からくる長時間労働で体調を壊し、現在も半病人の生活を送って
          いる。
           不思議なのは、この人生最後の賭けとも云えるコンビニ出店に際して誰にも
          相談をせず、本部との契約においても弁護士のアドバイスを求めることさえして
          いない。思い込みと自信過剰と経験不足とが交じり合っ複合的な失敗である。
    
           著者はフリーライターとして、ベンチャー企業・ニュービジネスの取材を長年手
          がけてきた。02年には、著者自身がベンチャー支援の雑誌出版で起業を行い、
          約2年で廃業している。この間、運転資金作りのために不動産ブローカー紛い
          の経験をしたり、奥さんとは離婚をしたりと辛苦の数年を過ごしてきた。
           取材と自身の起業とを通して、「起業バカ」には愛憎入り混じった文脈が読み
          取れる。
           ただ、「市場が縮小している日本に会社は必要ない」とか、「上場がゴールの
          起業で、1580人に一人しか成功できない計算」とか、「増え続けるFC加盟店」
          など、基本認識で多くの間違いが見受けられる。
           日本市場が縮小しているのは、起業による雇用や新規投資が増えないところ
          に原因があり、構造改革が進む現在は、起業の必要性も、成功する可能性も
          十分にある。
           また、起業の目的もゴールも、大切なのは事業の継続であって、継続するな
          かで運のよい会社が上場するのである。
           誰もが起業で成功するとこはありえないし、そんなに多くの会社が上場するこ
          ともありえない。
           そして、FCの加盟店はここ数年、頭打ち状態が続いて、大手のFC本部は個
          人投資から法人投資に渋々スタンスを替えているのが、実情である。

           本来なら、この本の表題は「起業バカ」ではなく、「フランチャイズ馬鹿」とする
          べきである。ただ「フランチャイズ馬鹿」となると、ベストセラーにはならないだろ
          うが・・・。
           それでも、起業を志す人にとって、一読に値する本であることは確かだ。人気
          の業種を渡り歩くFC詐欺師たち、元銀行員が加担する金融ブローカーなど、近
          づいてはいけない闇の世界の実態をそれなりに教えてくれる。
           また、起業において重要なのは起業スキルとそのノウハウであり、この
          本で紹介されている失敗例を見る限り、起業スキルやノウハウにはまったく関
          心が払われていないことに気付く。
           起業情報にはまったく無関心でいながら、自分の起業だけは成功すると信じ
          るFCの世界の不思議が見てとれる。           

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