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                起業を目指す人のための転ばぬ先の起業講座

          


             『 スピード経営に踊らされていないか? 』

           企業経営において、意思決定のスピードアップは常識になっている。
          経営本には、経営のスピードを上げることによって、弱小企業が大手企業を出
          し抜いて仕事を獲得した話や、経済紙にはスピードアップによって生産性を上
          げた会社など、成功例には事欠かない。
           ただ、これら成功例となっている企業が、資本金で云うと1億円以上、従業
          員数で50人から100人以上の企業が、暗黙のうちに対象になっていることを
          認識している起業家は少ない。
           基本的には、会社の方針が周知されない、社長の意思が社員に徹底されな
          いなど、企業規模の大きな会社の話である。その問題解決のために、風通し
          の良くなる方策が色々と考えられているのだ。
           他方、起業したばかりの個人事業や会社は、経営者が自分で意思決定して
          自分で業務を遂行するわけだから、元々がスピード経営の上に成り立ってい
          る事業である。

           T さんは2002年10月、それまで勤めていた大手電機メーカーを辞めて、P
          C教室と小企業向け情報システム構築の会社を設立した。
           設立当初は、会社向けシステム構築の受注はほとんど期待できないので、
          PC教室で食いつなぎながら、地道に地元企業に顔を売った上で仕事の獲得
          に結びつけようと云う戦略である。
           彼は、メーカー勤めのころから仕事のスピードが早いことが自慢で、この2つ
          の業務も難無くこなせるだろうと考えていた。
           ただ、1年が過ぎて顧客になってくれた企業は5社。不動産屋や飲み屋のH
          P作りと建設設備会社の受発注システムなどである。PC教室も2人のアルバ
          イトを使って、やっと黒字が出る程度だった。
           さすがに、何とかなるとのんびり構えていたT さんも、早急に手を打たないと
          会社が立ち枯れる恐れがあることに気づいた。
           こんなとき、起業家にはおいそれと相談に乗ってくれる人は本当にいない。
          唯一頭に浮かんだのが、隣接する市の建設設備会社のK社長。システム構築
          では大切な顧客の1社で、そのうち付き合いのある会社を紹介してくれるとも
          云っていた人だ。
           相談の席で提示されたのが、現在の500万円の資本金を1500万円にして
          有限から株式会社に組織替えを行い、K社長が1000万円の増資を引く受け
          てくれると云う。
           T さんは即断で提案を受け入れて増資をお願いし、会社の資金繰りもやっと
          息のつける状態になった。
           昨年からは、K社長の手助けもあってPC教室、システム構築とも急速に顧
          客が増え、従業員も6人にまで増やした。今年に入ってからも業績は予想以
          上に伸びていたが、株主総会を前にK社長から申し出があり、会社の社長を
          T さんからK社長に交代することになった。
           T さんはまったく想像しなかった展開に、慌てて弁護士相談や伝手を頼って
          遠縁の企業経営者の話を聞いてみたが、増資の段階で経営譲渡が済んでい
          たことになる。

           現在、専務に降格して仕事をしているTさんは、複雑な気持ちで毎日を過ご
          している。K社長の増資がなければ廃業に追い込まれていたかも知れないし、
          増資がなくても会社は業容を拡大していたかも知れない。
           ただ、企業経営の基本的なことを何も知らないことと、何も考えずにスピード
          だけで会社の重大事を意思決定したことは今も悔いてる。
           実は、Tさんのような失敗は起業ではとても多い。
          その背景にあるのは、誰にも相談しないで一人で意思決定することが多いこ
          と。起業に際しては、誰かに相談すると反対されるのが見えてるので独断で
          決めるが、起業してからも独断で意思決定することは危険だ。
           また、スピード経営全盛の現在においても、それは大手の企業の話で、起
          業時や中小企業は足元をよく見た上で熟考の意思決定に徹する勇気が必要
          だ。Tさんのように、業務のスピード自慢と経営のスピードとを混同するのは
          論外である。
           M&A流行りの昨今、Tさんのようなケースは想像以上に多い。起業家の意
          思決定は、考えて考えて、それでも考え過ぎということはない。               

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